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が、妄想と戯言と言い訳しかないです。
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翼井+飛皋現代パラレル話「ともかがみ」の番外、というかボツにしたエピソードです。
2の途中に入るエピで、某寺の住職視点です。
というわけで更に俺設定満載ですが、ご興味のある方は続きからどうぞ。


※「ともかがみ」2のネタバレを含みます。





 すっかり意気消沈している少年を、影喘は興味深く眺めた。
 こいつ本当に芳准のことが好きなんだな、と今更な感想を抱く。
 好きだから、少年は今とても傷ついているのだ。心の底から。
 ――……巻き込むつもりはなかったんだがな……。
 李家の事情に、芳准の過去に関わらせるつもりはなかった。関わってしまえば、少年が芳准によって不当に傷つけられると思ったからだ。
 その役目は長年の付き合いである自分が負うつもりでいた。芳准自身の為にも、芳准の言動によって傷つく人間の数を必要最小限に留めたかった。
 だがその願いは叶わなかった。
 少年は芳准に深く関わってしまった。そして――芳准は不当に彼を傷つけた。恐らく今の芳准の状態では、自覚できていないだろうが。
 ――痛みは誰よりも理解している筈なのに。
 感覚が麻痺しているのか。
 それともまだ――あいつは罪人気取りでいたいのだろうか。
 ――……俺も俺だな。
 この六年、一体何をやってきたのだ。救いを求める人間に対し何をしてやれた。
 向いてねえな、と思う。自分はやはり坊主なんぞ向いていない。人の心を救えないのなら宗教家として失格だ。
 神に縋って、それで終われるのであれば、どんなに楽か。
「……そう気張らなくてもいいんだぜ」
 気づいたらそんなことを口にしていた。
 暖めた湯のみにほうじ茶を注ぎ、少年に渡す。
「お前はよくやってるよ」
 それは本当にそう思う。あんな風に拒絶されて、傷つけられて、痛みを抱えて――それでも少年は喚かずに持ち応えた。
 以前と比べて随分成長したと思う。子供にしては上出来すぎるくらいだ。
 湯呑みを受け取った少年は、何か不味いものでも食べたような顔をして影喘を見やった。
「何やオッサン、いきなり気色悪いで」
「俺としても責任は感じている。というか――お前が思ったよりも器用な所為で、むしろ被害を被っているというか」
「ああ?」
「餓鬼のまま突っ走って転んでりゃ、それはそれで済む話だったんだぜ」
 芳准は救われなかったかもしれないが、少年が傷つくことはなかった筈だ。もっと早く彼が諦めていれば。
 少年は眉を顰めて茶を啜った。
「ほんまに……それで済む話か? っちゅうか……もしもの話に意味なんかあるんか? ……ないやろ、そんなん。それに……」
 こんな痛み、屁でもあらへん。
 少年は最後に強がった。
 そんなところはまだ子供らしい。だがそう強がれること自体が、影喘には少し羨ましかった。
 なぜならそれは武器になるからだ。子供しか持ち得ない、最強の矛と盾。少年だから通る、通せる理屈。
 ――今のお前にしか守れないものだってある。
 それは確かに存在する。だから自信を持っていい。
 お前が歩んでいる道は、間違っちゃいない。
「お前、坊主になる気はねえか?」
「っはあ?! な、なんで」
「いや、向いてるんじゃねえかと思って」
「アホ抜かせ……。自慢ちゃうけどな、そんなに人間出来てへんわ」
 出来てるさ――俺よりは。
 心中でそう返しながら「そりゃ残念」と呟いた。
 そして次の瞬間、眉間に走った感覚を受け止めて眉を顰める。少年も何かに気づいたように顔を上げ、影喘を見やった。
 この感覚は――。
 ――護法童子……。 
 影喘が芳准を護る為に放った摩利支天。その気配を近くに感じる。
 ――……解放されたのか?
 何故そんな真似をした。手元に置いておけばいつだって影喘を攻撃出来たのに。
「おい、なんや……今の」
「……気にするな。問題ない」
「せやけど」
「俺が放った護法童子が戻ってきただけだ。回収してくる」
 ゆっくりと腰を上げて、居間を出る。重い足取り――内臓に錘を埋め込まれたような圧迫感が影喘を襲う。護法童子の術が解かれた証だった。
 ――何の力だ、これは。
 少年の話によると仕掛けてきた男は――あいつは、陰陽師のような格好をしていたらしい。そして芳准のように梵(タントラ)を唱えた、と。
 おかしい。あの男は陰陽術の修行などしていない筈だ。芳准に付き合って妖魔退治の仕事を手伝ってはいたが、あの男は基本的に何の力も持たない一般人である。
 死して尚、新たな力を持てるとすれば――。
 ――……堕ちたか。
 それは男の意志なのだろうか。
 影喘は静かに芳准が寝ている部屋の戸を開けた。寝台に寄ると、彼は再び眠りについていた。涙の筋が幾重にも頬に連なっている。
 たくさん、泣いた跡。
 影喘はシーツの上にあった白い札を拾い上げる。護法童子の型――術を以って摩利支天を模ったもの。
 護法童子が男に捕まっていたのなら、僅かでもその痕跡が残っている筈だ。ならばこの札からあの男の気を辿れば――。
 いや、と影喘はその案を却下した。それは己の成すべきことではない。大体にして朱雀七星士が二人がかりでも苦戦する相手だ、影喘など足元にも及ばないだろう。
 己に出来ることは、精々自分の身を守り通すことくらいだ。
 芳准が悲しまない為に。
 ――甘いのは俺の方だ。
 甘やかしているのだ、無意識にも意識的にも。
 だから救えない。影喘には――。
 口端を上げ、苦く笑う。
 今頃、地獄の釜の中で糞親父が俺を見ながら嗤っているだろうな、と不肖の息子は思った。
 
 
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